「日記をつけるように」フィルムで撮る

毎年秋は、業務上とても忙しい。

休みの日も休んだ気がしない日が続く。

ただ今年は家に帰ると去年までは無かったカメラたちがいる。
ニコンF6、バルナックライカ、ローライコードⅣ…
中でも筆頭はやはりハッセルブラッド500C/M。

出張を終えて家に帰るとまず真っ先にこのカメラで子供を撮ることを考える。

藤田一咲さんの著作に影響を受けて、「日記をつけるように」ハッセルブラッドで写真を撮っている。本当に何でもない日常。下手するとブローニー1本、家から50m圏内で撮影していたりする。(家の中、マンションの廊下や階段・駐車場の散歩など…)

リバーサルで撮ることが楽しく、PROVIA100Fを愛用(というほど長期使用しているわけではないが)しているが、正直フィルム代や現像コストはなかなかのものだ。しかも経験が浅いためピンボケや露出ミスも頻発する。
それでもハッセルで撮るのが楽しくて、やめられない。
リバーサルの現像受け取りは毎回ちょっとドキドキする。期待値が高い分、失敗カットが多いと少し凹むが、負けじとまたリバーサルをマガジンに詰める。一連の写真が出来上がるまでの物理的な手順や所作が面白い。

フィルムカメラを始めるまでは「現像上がりを待つのが楽しい」なんて信じられなかったが、今ならその気持ちがよくわかる。ちょっと時間をおいて撮ったことを思い出すのに、フィルムはちょうどいい。

時間が無くても、遠出ができなくても、(個人的に思う、)いい瞬間は転がっている。

夜明け前の朝、ちょっとベランダに出る。
太陽の光に大きな角度がついていて、影が長く、空の青とオレンジの移り変わりが分単位で変わっていく。ひんやりした風とツバメの飛ぶ空、薄っぺらい桃色の雲がふんわり流れる。
眠い目をこすって、散歩をせがむ子供とマンションの敷地内を歩く。
普段は目にとめることのない雑草に小さな花が咲いていたり、雨上がりで美しく濡れていたりする。子供の成長は著しく、昨日までできなかったことや、やらなかったことを突然できるようになってしまったりする。小さな心の動きを、ハッセル独特のシャッター音で光と一緒にフィルムに閉じ込める。
子供のつまむアスファルトの石ころも、掴めそうなくらい生々しくカールツァイス・プラナーレンズは描いてくれる。

ネガでもリバーサルでもモノクロでも、記憶からぽろっと零れてしまいそうな思い出を集めるのにフィルムはとてもいいものだな…と改めて思いながら、また仕事へと向かう。

今回の出張にはカラーネガの入ったライカⅢbを連れて行こうか、モノクロの入ったライカDⅢを持っていこうか…いつも直前まで悩んでしまう。

カメラは持っているから撮れる。
それがお気に入りなら、いつでも持っておきたくなる。だから撮れる写真もあると思う。
ハッセルも、ライカも、「持っておきたくなるカメラ」だと心底思う。

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